旅のはじまり
森美術館にて6月11日(日)まで開催中の「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」へ行ってきました。
不勉強なもので、これまでN・S・ハルシャさんをまったく存じ上げなかったのですが、
今回の展覧会を見たところ、とてもユーモラスで思慮深く、優しいお方なんだろうなと感じました。
ハルシャさんはインド南部のマイスール生まれで、現在もマイスールを拠点に活動されているお方。
インドは多民族、多宗教、多言語の国。様々なバックボーンをもつ人たちが一つの国に共存している、多様性の国です。
ハルシャさんの作品にも、多様性をまるごと捉えるような視点が多く見受けられます。
その眼差しはとても優しくて、ユーモアと皮肉も交えています。
無限のつらなり
個人的に印象に残った作品とその感想を、少しご紹介したいと思います。
あくまでも、個人的な主観に基づいた感想です。これも多様性の一つとして見ていただければ幸いです。
※本ページに掲載している写真は「クリエイティブ・コモンズ表示 – 非営利 – 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。
会場内では、初期の代表作から今年行ったワークショップに至るまで、およそ20年にわたるハルシャさんの
活動を見ることができます。
特徴的なのは、モチーフの反復です。

例えばこちらの作品。近づいてみると、同じ人を繰り返し描いているのではなく、それぞれ違う人を反復しているように描かれていることがわかります。
遠くからみれば同じ人。しかし、近くでみれば違う人。

同じことを何度も繰り返すのではなく、少しずつ違うモノがつらなっている。
人も、毎日も、砂粒も、星も、すべて違っていて、でもそれらはバラバラにならずに、果てしなく大きなくくりに入っているように感じました。

ミクロとマクロを行ったり来たりしながら見ていきました。
もうそこから、「チャーミングな旅」は始まっています。
残り物
マイスールの文化に触れる展示もありました。

南インドの伝統的な食事「ミールス」のインスタレーション。
完食する人もいれば、まったく食べない人もいる。
ほぼ完食。葉の上をすべる指の動きまでわかります。
残ったもので、その人の嗜好や性格まで透けて見えるようです。
絡まりあう

足踏みミシンが並び、国旗が編まれています。
複雑に糸が絡みあって、端切れが床に落ちているものも。
働き者のミシン。たくさんの部品が動いて、ひとつの国家を編んでいきます。
色とりどりの国旗が並び、カラフルな糸が無数に伸びている。
糸が絡まりあったミシンは、ちゃんと動くのでしょうか。
日本の国旗もあります。会場で探してみてください。
そういえば、日本の国旗は2色だ。
まるごと

壁一面の巨大な作品です。近づいて見てみると、
星の瞬きが。
遠くて見ると、それ自体が大きな生き物のようで、近くで見ると、そのひとつひとつが美しくて。
すべてを飲み込んで、まるごと生きているように感じました。
ちっぽけな、とても小さなものでも、この世界を構成するのに必要なもの。
永遠に続くような、偉大な繰り返し。
ふたたび生まれ、ふたたび死ぬ。
ヨリミチのモクテキチ
少しだけ違い、少しだけ同じ。
多様さを認める、それを尊重することは、一筋縄ではいきません。
二筋も三筋も、百の縄があってもくくり切れないものです。
じゃあもう、くくってしまわないで、それもある、と認めてしまおう。
いろんな事情は、あると思いますが。
手探りでも、遠回りでも、みんなが心地よくいることができるようにしたいなと、決意を新たにしながら帰途に就くのでした。
みなさんは、ハルシャ展でどんなことを想い、なにを感じ、なにを受け取るのでしょうか。
会期は、6月11日までです。森美術館へ是非!
Writer:太田代輔