平成から令和への改元をまたいで、森美術館の「六本木クロッシング2019:つないでみる」展でヨリミチミュージアムを二回実施しました。一回目の4月20日(土)は週末の午後、二回目の5月15日(水)は平日の夜のヨリミチです。
クロッシング展は「日本の現代アートシーンを総覧する」展覧会と銘打って、森美術館が3年毎に開催しているもので、今回で6回目になるそうです。
展覧会のタイトルにあるように「つながり」をキーワードに構成された展示ということなので、今回のヨリミチは、まず各々が「自分とつながる作品」をさがして、それを他の参加者と一緒に話をしながら見る、という流れで行いました。参加者2~3名にファシリテーターが1名加わったグループで作品を見ていきます。



ひとりで見る時間
オープニングの挨拶のあと、森美術館ラーニング担当の白木さんから、今回の展覧会の概要を伺います。 25組のアーティストが参加している展覧会ということで、作品は多彩で数もたくさん。そこで、まずは約一時間、それぞれが「自分とつながる作品」を探して会場を一巡りします。一対一で作品と対面し、自分との「つながり」をさぐる時間です。気になった作品は、カードにメモをしてもらいます。
みんなで見る時間
グループ毎に集まって、それぞれが「つながり」をみつけた作品を、今度はみんなで見ていきます。どのグループも、今日初めて会った方同士とは思えないほど、 次々に言葉が交わされていきます。聞き役に回った方もしっかり聞いてくれるので、自然と話が弾みます。
ふだんは現代アートは敬遠してあまり見ないという人も、他の人の感想を聞いて別の視点が加わることで、話が発展していきます。自分がパスした作品も、他の人が感じた「つながり」について話を聞いているうちに、見逃していた魅力に気づくこともあります。 わからない作品だからと何度も観ているうちに、だんだん作品との距離が縮まり、作品に入り込んで考え始めている様子が感じられたり…。対話の中でそれぞれに起こるこうした変化こそが、ヨリミチのおもしろみだと思います。
作品の前で…
みんなで見た作品のなかから、いくつかご紹介します。
飯川雄大《フェードアウト、フェードアップ―落石発見!―》


会場入口の《デコレータークラブ―ピンクの猫の小林さん―》の裏にあった作品です。「スポットライトが当たっていて、ちょっと異質なこの石?岩?がこの場所になんで来たのか、背景のストーリーがありそうだ」と思ったそうです。「地層のような模様もあるし、この場所ではないところから来たのではないか」と。そして、大きさを想像してみたところ、3人とも違う大きさをイメージしていたとわかって、面白い作品でした。
目《景体》


この作品を選んだ方は、 船から波を見る時に以前から感じていたことを話してくれました。すぐ手の届く距離にあるのに、入っていくことができない場所(海)との間にある「境界」だと感じる、ということでした。「 言葉にして語ったことで、漠然とした感覚におさまりがついたような気がしました 」と感想を語ってくれました。
竹川宣彰《猫オリンピック:開会式》


「猫は社会の中の弱者だと思っている。そんな猫たちが集いお祝いしている感じが、あたたかいし未来は明るい感じがした。」「すべて陶器やタイルでできていて、割れ物。それが競技場に比べて小さく頼りげない台に乗せられている不安定感。」「猫の一匹一匹の表情、仕草がとにかくかわいい!」と、話が弾みました。
林 千歩 《人工的な恋人と本当の愛-Artificial Lover & True Love-》
じつはこの作品、グループの中でも好き嫌いが分かれた作品でした。ある方は、「非常に興味深く、よくとらえてる作品だな」と思ったそうです。個人的に「AIとの恋愛は成り立つのか?」と思うことがあり、この作品をみて、また改めて考えてしまったということでした。 あなたは、AIとの恋愛、成り立つと思いますか?


前田征紀《智異竜宮茅紙張箱》
初めは「死」をイメージして見ていたそうですが、キャプションを読んで、家の素材だったものを使っていると知り、その途端に作品があたたかみや親しみのあるものに見えてきたそうです。「視点の変化を実感した作品でした」と感想を述べてくれました。 祈りの空間のような雰囲気も感じられるスペースでした。
最後に
今回は、カフェタイムなしのプログラム構成だったので、 最後にみなさんの感想を聞かせてもらう時間を設けました。 カフェの時間に代えて展示室内の時間を長めにとれたので、たっぷり話ができたという感覚をもっていただけたようです。「テーマ(自分とつながる作品)もよかった」、「普段なら素通りしそうな作品を、テーマがあったためじっくり見ることができた」という言葉に、嬉しくなりました。
ヨリミチミュージアムは、その日参加した方同士が、一期一会の「作品を介した対話」を楽しむプログラムです。参加者の皆さんには「またぜひ参加したい」との声をいただいていますし、実際にリピーターの方も少なくありません。もし、ちょっとでもご関心をお持ちでしたら、ぜひ一度参加してみてください。お待ちしております。
writer はかた としお

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