久しぶりのヨリミチミュージアムは、東京都庭園美術館で開催された「生命の庭ー8人の現代作家が見つけた小宇宙」展(2020.10.17(土)〜2021.01.12(火)開催)で12月27日お天気に恵まれた日に実施しました。今回は2つのプログラムを企画し、美術館で密を避けて少人数でのヨリミチ「プラン1」と当日夜にオンラインでのヨリミチ「プラン2」を実施しました。
前編では美術館でのヨリミチ「プラン1」の報告をいたします。
今回の「プラン1」は、コロナ対策として、鑑賞するグループ人数をマックスで3名とし来館者の少ない午前中に実施する事で密を避けるよう配慮しました。当日は美術館の開館時間に合わせて集合し、時間より前に集合していただけた方々のおかげで順調な開始となりました。
美術館でのプログラムはまず受付をしてから美術館へ入り、各々で展覧会を鑑賞してもらいます。その後集合していただいて選んだ作品の場所を考慮してグループ分け。2〜3名のグループ3つに分かれて1時間ほど鑑賞します。グループで鑑賞する作品は、受付時に配ったミッションカードにあるミッションテーマ「心が揺さぶられた作品」に沿った作品を各々で鑑賞する時に選んでもらいました。その作品をみながらみんなでおしゃべりして感じたことや思ったことなど自由に語り合います。鑑賞後再度集合し、全員で鑑賞の感想やヨリミチ参加の感想をいただき、最後に庭園美術館のスタッフの方よりお話しをいただいて解散です。
「プラン1」には、5名の方が参加してくださいました。
各々の鑑賞後、3グループに分かれて行われたヨリミチ鑑賞では、
ヨリミチMグループ 最初の鑑賞作品のところへ行くとその作品を選んだ方が「ここ最近美術館などに出掛けていなかったので今までと違う作品の受け止め方をした。自身が驚いて心がゆさぶられた作品が、コレって選べなかった。」と話されながらもその中でギャラリー2の青木美歌さんのガラスの粒が雨粒のように沢山吊られている作品をチョイスされました。なぜこれを選んだのか考えている中、もう一人の参加者の方から「ネガポジの世界」という発言があり、それを受け二つの真逆の要素がある事を意識され作品のみえ方や感じ方が変化したようです。「光と影がある」「見える物と見えない物」「柔らかなガラスと硬いガラス」選んだ理由を深層心理で感じていた事を意識し始めていらっしゃいました。 対話が弾んだことでその方の思考がグググっと動いた場でした。
山口啓介《香水塔と花箱》2020(井戸の上のカセットキューブを含む構成)
次は 大客室にある山口啓介さんの作品へ。 光に照らされ綺麗なところからチョイスされました。 カセットテープのケースが使われていると気付き、一つ目の作品の様に真逆の要素なのかとみてみます。ちょっと古いカセットテープのケースと花、、、??ここでは違うと感じます。 花がカセットテープのケースに入れられている、台座に違いがある、蜂の巣?など不思議を感じている様子です。よく見ると花と造花がある。みればみるほど謎が深まりました。 その後、若宮寝室にある康夏奈さんの作品へ向かいながら、階段前の小林正人さんの作品で対話。お二人にそれぞれ何にみえますか? と尋ねると「火山にみえる」 どこから? 「隕石が落ちたしぶきがある」 熱や動きを感じている。 もう一人の方は、「山」 どこから? 「色から、形からもだが草木の色を感じた」 と季節感も感じていました。 私はチーズにみえたと伝えると、山の硬いイメージから柔らかな物を感じていました。 同じ山と感じてもそれぞれ違う山を想像しているんですね、とお互いの意見を聞きながら”あ〜”と声が出たり、みえ方が変化していきました。 康さんの作品で良いと思ったところは「作品の色、青い色に魅せられた。」 何にみえますか?の問いには 「作品タイトルにlakeとある、だからどこかの湖、摩周湖かな、 地形からしてカルデラ湖。」 「よく見ると水が流れている」 「季節は初夏」 「向こう側にピンク色を見つけた、向こう側もみたい、あちらに行きたい。」など対話が続きます。 どこから湖と思いましたか?lakeとありますが、青い部分は水?空も青いから空かも、、と投げかけると 「先入観でみてるかも」と発言があり、空としてみると湖の底としてみてた部分が空の一番高い所と感じていました。作品を立体的に捉え山の斜面の感じ方も変わり作品が動いていました。 その後志村信裕さんの楽譜の作品、妃殿下居間の青木さんの作品をみながら移動し姫宮寝室のドア上にある小林さんの作品をみて、「この場所に合っている、尖った形のライトと作品の三角形に呼応している」や、真ん中にある白い物が「島にみえる」「海にみえる」など参加者同士色々と会話が弾んでいました。
康夏奈《Beautiful Limit-果てしなき混沌への冒険》2010
小林正人《Unnamed(眠り)+姫宮》2020
ヨリミチOグループ 初参加の方とスタッフの2人グループなのでファシリテーターとしての立場をとりつつ1人の鑑賞者としてもお話を一緒にしていくことにしました。 最初は大食堂の加藤泉さんの作品へ。どうして気になりましたか? 「どれ、というよりここにある作品が空間に負けてなくてとても主張しているところが気になった。」「ここの部屋だけでなく美術館の中で思わぬところにヒョコっと顔を現して存在感を示している。」 立体の作品や油絵の作品で 何か気になるところは? 「それぞれのものの境界が曖昧 」なぜそう感じましたか?「 作られている物自体は人に見えるが人とは乖離したものにみえてくるし、また猿だろうかとよくみると猿にはみえなくて、そこにあるものの本質が何なのかわからなくなってくる。でも、なぜかとても部屋に負けてない存在感がある。 」次に2階のベランダ突き当りの大きな作品へ。 「とても存在感がある。」 どこからそう思いましたか?「 作品の色、形が近未来的というよりもとても原始的なものに感じる。生命の活動を感じる。」 そして最後に青木さんのギャラリーの作品 《あなたと私の間に》へ。 「机の上は細胞がどんどん増殖していきキノコ類のように成長していく。 下の影は一つ一つの細胞がくっついて大きくなっていく様子がみられる。」 この作品をみながらお話しされたことがとても印象に残ってます。また、 「現代の多くのアーティストたちは今は制作するのに躊躇したり停滞していたり佇んでいたりしているのではないかと思う。今後どんな風に作品を作っていくのか、変化していくのか、注目していきたいとも思う。 でも一方で現代作家はよくわからない。どうやって知っていくのか、どう理解したら良いのかピンとこないところもある。」と素直な感想も話していただけました。
加藤泉《無題》2020
ヨリミチUグループ 最初の作品は淺井裕介さんの「風の冠」、美術館入ってすぐの大広間にあります。鹿のツノがまあるく輪っか状につながった作品。この作品を選ばれた方は、「生命の輪、あらゆるものは繋がっているんだという感じがする。」どこから?「ツノの先を見てもらうとまた、そこに鹿の頭がつくられていて、ツノ自体がまた鹿になっているのを見ると輪廻みたいなものを感じました。」また、その作品の下に注目すると、台があるのではなくカーペットが剥がされてることに気づき、横にいた監視員の方に聞いてみました。「普段大広間はカーペットが敷かれています。でも、今回この作家さんたっての要望で、この作品の下のカーペットが取られて下の床に直接作品が置かれる事になりました。私も初めてこの床を見ることができました。」とのことでとてもレアなことだというのがわかりました。また、大広間にある淺井さんの他の作品も見ていくと、《混血ーその島には言葉がありませんでした。》の作品では「枝のような手が広がっていく」「宇宙のような広がりが感じられる」や「この真ん中の人の顔だけど、この顔の人は人じゃなくて”木”なんじゃないかな」「その木がすべての生命、ここにいる動物たちを守っているイメージ」など、見れば見るほど発見があり、見方がどんどん変化していきました。2階へ移動し、康さんの作品では「青と緑の色がとても綺麗」から「これは湖に映った山と空だと思う」と他の2人とは違う見方に「おおっ」と声が上がったり、また、「その下の形にも何か意味があると思う」など次々に感想が出てきました。次の作品へ移動しながらも、小林さんの馬の作品のところで「これも気になってたんですよね」とその描かれ方や色などについて、思ったことなどの感想をおしゃべりしながら最後の作品のところへ。最後は青木さんの作品《光に始まる 光に還る》へ。この部屋は真っ暗で、青木さんのガラス作品のみに光があたっていて不思議な感覚に包まれます。選んだ作品について、「まるで胞子のよう。」と胞子の性質について説明した後ミツバチやアリのように他のために働くような社会性の話から人間の社会の話にまで及び、「そんな世界を感じる。」と、このガラスの作品の形からそんな世界観を話されました。また、ライトに照らされてできた影と作品を見比べると、「作品は1つ1つが離れて置いてあるのに、影は全てつながっているように見える」と、見えていることと見えないことの関係性の話にまで及びました。
淺井裕介《風の冠》2020
各々1時間弱の個人で見る時間とおしゃべりしながら見る時間合わせて2時間近くの時間はあっという間に過ぎていきました。終わりに皆さんから感想を聞くと、「人と話しながらの鑑賞はいろんな気づきがあって楽しい時間でした。」や「いろいろな方の感想を聞くのがとても興味深い。」また「コロナであまり外出できない時にこんなプログラムを企画してくれてありがたかった。むしろ、企画してくれた方が外に出やすい。」とのご意見をいただきました。また、庭園美術館のスタッフの方よりも展覧会に関することや感想をお話しいただけて、楽しいヨリミチを終了しました。参加いただいた皆様ありがとうございました。
(上田紗智子)
“◎実施レポート◎ ヨリミチミュージアム「生命の庭展」編(前編)2020.12.27” への1件の返信